重症頭部外傷治療戦略会議[後編]
ブログ前回に続き、「重症頭部外傷戦略会議」の後編をご覧いただきありがとうございます。
このシリーズでは、私たちが日々の臨床で培った経験と最新のエビデンスをもとに、重症頭部外傷患者さんへの治療アプローチを整理し、チーム全体での共通認識形成を目指しています。
今回は、手術後の集中治療管理、特にICUにおける初期対応からその後の細かなケアに至るまでを、体系的にご紹介します。
術後管理における基本的な考え方
重症頭部外傷の術後管理において、二次性脳損傷を防ぐことが至上命題であり、二次性脳損傷を惹起するものとして低酸素、低血圧、高体温、凝固障害、てんかん、そして脳腫脹など様々なものがあり、これらに逐次対応していく必要があります。
本日のテーマである重症頭部外傷の術後管理の前提となる考え方は、「脳への酸素と血流の供給を維持して、脳の酸素分圧を維持する」です。それには供給を決定する因子である脳血流量(CBF)と動脈血酸素飽和度(SaO₂)を維持すること、脳酸素代謝率(CMRO₂)を低く抑えることが重要です。すなわちCBFを低下させうる平均動脈圧(MAP)の低下や頭蓋内圧(ICP)の上昇を防ぎ、脳の酸素消費量上昇の原因となる発熱や異常興奮(てんかん)、シバリングを抑えることが重要になってきます。局所酸素飽和度(rSO₂)、脳組織酸素分圧(PbtO₂)、内頸静脈血酸素飽和度(SjO₂)、CMRO₂は、本邦ではあまり測定はされておらず、CBFもベッドサイドでは測定できないため、脳の中で起こっていることはなかなかモニタリングできないということも念頭におく必要があります。

ICU入室後に行うべき初期対応
我々の治療戦略の元となった文献はBrain Trauma Foundation(BTF)の重症頭部外傷ガイドライン第4版です。しかしこれは治療プロトコルではないため、BTFのガイドラインを臨床に落とし込むべく、シアトルで行われた国際会議(SIBICC)で作られたアルゴリズムを今回参考にしました。
まずアルゴリズムの中でZero tierつまり階段の0段目、ICUに入室して早期に行うべき一般的なケアについてですが、これらは頭蓋内圧(ICP)とは無関係に行い、安定した神経保護の生理学的ベースラインを作ることを目標としています。
具体的には、連続的な神経学的評価はもちろん、挿管および人工呼吸器による呼吸管理を確立し、SpO₂は94%以上を目標とします。呼気終末二酸化炭素分圧(EtCO₂)のモニタリングも重要です。必要に応じて動脈ライン(Aライン)および中心静脈ライン(CVライン)を確保します。30〜45度のギャッジアップ体位を取ることで静脈還流を最適化し、適切な鎮痛と鎮静を施し、頭蓋内圧の上昇を防ぎます。体温は38℃以下を、ヘモグロビン濃度は7g/dL以上を目標に管理します。また、てんかん発作の予防を目的に、発作歴がない場合でも抗てんかん薬の1週間投与を考慮します。
これら一連の初期対応は、重症頭部外傷のICU管理の基本となります。

推奨しない治療アプローチについて
一方で、術後管理において「行わないほうがよい」とされる治療法も明確にされています。
具体的には、マンニトールの持続投与や4〜6時間毎の高浸透圧液の定期投与、腰椎穿刺によるドレナージ、フロセミドの使用、ルーチンでのステロイド投与、深部低体温療法(35℃以下)などがこれに該当します。
また、意図的なBurst suppressionを目指した高容量プロポフォール投与、PaCO₂を30mmHg未満にする過換気、CPPを90mmHg以上に維持する方針も推奨されません。
これらの介入は一見積極的な治療に見えますが、予後の改善に寄与しないだけでなく、むしろ合併症を引き起こすリスクが指摘されています。

ICPとCPPの管理:重症頭部外傷管理の前提
頭部外傷患者の術後管理において、ICP(頭蓋内圧)とCPP(脳灌流圧)の適切なコントロールは管理の中心をなします。おさらいですが、CPPは、MAP(平均動脈圧)からICPを差し引いた値で計算されます。
Brain Trauma Foundationのガイドライン第4版では、ICPが22mmHg以下、CPPが60〜70mmHgの範囲を目標とすることが推奨されています。
特に、ICPが20mmHgを超えて5分以上持続する場合を「ICP亢進」と定義し、速やかな介入を要します。CPPが50mmHgを下回ると予後不良に関連し、70mmHgを超えるとARDS(急性呼吸窮迫症候群)のリスクが高まる可能性があるとされます。
CPPの最適値が60付近なのか70付近なのかは症例により異なり、これを判断する方法は後述します。管理の方法としてICPをPrimaryに考えてコントロールすることをICP oriented、CPPをPrimaryに考えてコントロールすることをCPP orientedと言います。
重要なポイントは、最適なCPP値は個々の症例により異なるため、画一的な対応ではなく、患者ごとの状態に応じた柔軟な調整が必要であるということです。

鎮静・鎮痛管理の重要性
重症頭部外傷では、適切な鎮静が脳の保護に不可欠となります。特にICPコントロールが必要な場合には、リッチモンド・アジテーション・セデーションスケール(RASS)で−4から−5の深鎮静を目指します。
一方、ICPコントロールが不要な場合や、頭部外傷があるものの不穏状態にある患者さんに対しては、RASSスコア−2から0程度の浅めの鎮静を目標とします。

深鎮静には人工呼吸器関連肺炎(VAP)のリスクが伴いますが、重症頭部外傷ではある程度リスクは許容する必要があります。
これはNEJMの脳損傷のある患者の刺激に対する脳波の反応を測定した研究ですが、意識障害患者では刺激に身体的な反応を示さなくても脳波は反応しており、この反応の乖離をCognitive-Motor-Dissociation(CMD)と呼びます。プロポフォール4mg/kg/hというかなり高容量でもCMDは観察され、あらゆる患者層で鎮静の深度が浅いとCMDが増えます。鎮静はCMDを抑えることを目的としませんが、少なくとも脳の活動を押さえ、代謝を抑えることが鎮静の目標となります。つまりどんな患者でも脳保護には鎮静が必要であり、深度を深くしてもある意味不十分ということになります。浅ければ意義が低くなるので脳保護には深鎮静が必要となります。

ただしいつまでも深鎮静をするわけではありません。これはSIBICCの一時的に鎮静を中断する「Sedation holiday」に対するHeatmapです。想定される患者はMarshall CT scoreのEvacuated mass lesionでDiffuse injuryのI-III、おそらくGCSのMotorは1-3であることが多く、瞳孔所見はAbnormalであることが多いです。となると一番右の縦列が想定される患者群であり、エキスパートたちは72時間以上ICPが安定して経過したらSedation holidayが安全に行える可能性があると考えていることが概ね分かります。

鎮痛管理については、Critical-Care Pain Observation Tool(CPOT)を用いて痛みの評価を行い、スコアが3点以下となるようコントロールします。筋弛緩薬はルーチン使用せず、必要に応じて個別に検討する方針としています。
循環・呼吸管理の実際
循環管理では、収縮期血圧(sBP)110mmHg以上の維持を基本とし、患者さんの状態に応じて上限を140、160、あるいは180mmHgに設定することとします。脳外科チームでは、脳自動調節能(Auto regulation)が保持されているかを評価し、その結果に応じて血圧管理の指針を調整します。

正常な脳は血圧にかかわらず脳血管を収縮、拡張することで脳血流量CBFを一定に保ち、これをAuto regulationと呼びます。MAP50-150mmHg程度の間であれば、正常人ならCBFが一定となります。部分的に破綻するとこのRangeが狭くなって、MAP依存性にCBFが変化することとなります。完全に破綻すると完全にMAPにパラレルに変化するようになります。

つまりAuto regulationが保たれている場合、MAPが上がると脳血管は拡張し、ICPは下がる、もしくは変わりません。Auto regulationが破綻している場合、MAPが上がるとICPも上昇します。このMAPのデルタとICPのデルタを計算ソフトで計算してPRxという値を求めると、Auto regulationが保たれている場合PRxは負の値となり、破綻している場合は正の値となります。これはあくまで理論であり、過去の文献ではPRx 0.13をカットオフ値としていたりしますが、古い文献であり、この値が絶対というわけではありません。しかしいずれにせよICPとMAPの相関関係には注意を払う必要があります。

Auto regulationの評価手法として「MAPチャレンジ」が挙げられます。これは、昇圧剤を用いて20分間で平均動脈圧を10mmHg上昇させ、ICPを観察することで、Auto regulationを推測する方法です。ICPが下がるもしくは変わらなければAuto regulationは保たれているので、その場合はICPを下げる目的で薬剤を使ってMAPを上昇させます。MAP challengeでICPが上がる場合にはAuto regulationは破綻しているので、ICPを下げる目的でMAPを下げます。Auto regulationが保たれていればMAPを上げてもICPは上がらないので、MAPを上げてCPP70をTargetに、Auto regulationが破綻している場合はMAPを上げるとICPが上がってしまうので、MAPを下げてICP 20以下、CPP 50-60をTargetにして治療します。

体位と呼吸
呼吸管理では、ベースラインでPaCO₂を35〜40mmHgに維持し、ICPコントロールが不良な場合は30〜35mmHgを目標とします。ただし、PaCO₂を30mmHg未満にする過換気は推奨されていません。また、酸素化管理ではSpO₂を98%以上に保つことを目指し、体位は通常30度、ICPコントロールが難しい場合には45度までギャッジアップを調整します。

過換気療法については、CO₂が下がると脳血管は収縮してCBFが下がりICPは下がるが、これでは脳還流自体も下がることになります。つまりCPPを犠牲にICPを下げることであり、本末転倒な考え方であると言えます。そのためSix do not ruleというのを設けていて、予防的に長期間、また特に受傷後48時間以内に過換気にすることをしてはいけないとしています。
目標としてBTFでは25mmHgを下回らないように、長時間過換気にしないようにとしており、SIBICCではTier 1で35-38mmHg、Tier 2で32-35mmHgとしています。33-37mmHgで予後良好であったという報告もあります。当院の戦略ではベースラインでPaCO₂を35〜40mmHgに維持し、ICPコントロールが不良な場合は30〜35mmHgを目標とします。

高浸透圧療法に対する考え方
ICP亢進に対する治療として、高浸透圧療法は重要な役割を果たします。
高浸透圧療法として製剤は何を使用すべきか、ということに関して明確なエビデンスはありません。高張食塩水(HS)がマンニトールよりも若干有意に治療効果があったとするSystematic reviewはありますが、Cochrane databaseのSystematic reviewでは有意差なしとしています。

今後の治療戦略として、定時のグリセオール投与は行いません。ICP亢進の時のみ使用することとし、基本的にはHSを主体としてマンニトールを併用する形とします。具体的な投与量は、中心静脈ラインから10%NaClを1mL/kg、末梢ラインから3%NaClを5mL/kg、またマンニトールの場合は0.25〜1g/kgを4〜6時間おきに投与します。
治療中は、4〜6時間ごとに血ガスでナトリウム濃度と浸透圧をチェックし、12〜24時間ごとに採血による精査も行います。血清浸透圧320mOsm/L超、またはナトリウム濃度160mEq/L超を目安に、高浸透圧療法の中止を判断します。

体温管理とシバリング対策
体温管理に関して、SIBICCではTier 3に辛うじて記述があるのみで、あとは38度以下を目標にすること、35度以下は合併症が増えるのでルーチンでの低体温は避けるようにという記載があり、BTFのガイドラインでは2.5時間以内に始めて、48時間以内に終わる予防的な低体温は推奨できないと記載があります。低体温を支持する明確なエビデンスはありません。

今後当センターの方針として、38℃以下を維持することを基本方針とし、可能な限り36℃台をキープすることを目標とします。また体温管理デバイスの変更と期間の短縮化、シバリング対応のプロトコル化を行います。デバイスはThermogardを使用し、体温管理デバイスの使用期間であるが、様々な体温管理の論文では大体48時間以上をプロトコルとしていて、72時間以上という論文もあるが有意差はありません。48時間以内はBTFで推奨されないため48時間以上は行います。日本のガイドラインでは72時間以内、あるいは正常頭蓋内圧に至るまでとしていますが、そうするときりがないので、48-72時間で終了とします。

問題となるシバリングに対しては、Bedside Shivering Assessment Scale(BSAS)を用いて評価を行い、スコア1以下を目指して管理します。シバリングが見られた場合には、カウンターウォーミング、薬物治療(アセリオ、ロキソニン、フェンタニルなど)を段階的に組み合わせて対応しています。血中マグネシウム濃度も1.2〜1.65mmol/Lに維持することを心がけています。

抗てんかん薬とバルビツレート療法
抗てんかん薬については、発作歴のない患者さんに対して予防的にイーケプラ(レベチラセタム)を1週間のみ投与する方針を採っています。

バルビツレート療法は、基本的に「最後の手段」と位置づけています。ICPは低下するが予後は改善しないことが示されているからです。具体的にはチオペンタールをローディング後、持続投与し、4〜6mg/kg/hの投与量でBurst suppressionが見られるとされ、それが確認できれば、それ以上の増量は行いません。しかしモニタリングの指標は血中濃度やEEGではなく、あくまでICPを指標とします。

脳波
脳波のモニタリングの意義の一つは、現在の基礎的な脳の活動を観察することで予後の予測に使えることです。また鎮静の深度を測る上で使えること、てんかんのスクリーニングに使えること、また意識障害が遷延する際にNCSEを探しにいくことなどもあります。それぞれ目的が異なり、それぞれ意味が違うのでこれらを使い分けていきます。

ICPセンサー抜去と管理期間短縮
ICPセンサーは、ICPが安定してから72時間を目安に抜去します。SIBICCのICP抜去のHeatmapですが、この戦略会議の対象となりうる患者群においては、ICPが安定してから72時間以降で抜去を検討するエキスパートが多いようです。

タイムスケジュールのイメージとしては、治療開始後24時間以内にICPを安定化させることを目標に、最短72時間での管理終了を目指します。その後必要に応じて抜管または気管切開への移行を検討し、早期のリハビリ、ICU退室を目指します。

Take Home Message
今回ご紹介した術後管理アルゴリズムの中でも、特に重要なポイントは以下の通りです。
ICPコントロールのための適切な鎮静・鎮痛、血圧とCO₂コントロール、不要な治療の回避、高張食塩水の効果的な活用、積極的な体温管理とシバリング対応、1週間以内の抗てんかん薬終了、そしてICPセンサーの早期抜去と集中管理期間の短縮です。

重症頭部外傷の死亡率は低下しましたが、機能予後は改善していません。つまり寝たきり患者が増えています。救命はもちろん、集中治療期間の短縮、ICU滞在日数の短縮を目指すことで、救命の先にあるもの、機能予後も見据えた治療を目指していきたいと考えています。
外傷戦略会議・YTTのご紹介
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