埼玉医科大学総合医療センター高度救命救急センター

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重症頭部外傷治療戦略会議[前編]

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当センターでは月1〜2回、各科の連携を深め、より柔軟かつ確実な救急医療体制を実現する「外傷戦略会議」を開催しています。今回は「重症頭部外傷」をテーマに、脳外科チームより治療戦略と方針を共有いただきました。

※この記事は実際の外傷戦略会議の内容を書き起こしたものです

(脳外チームより)今回の目的は治療戦略の周知です。脳外科医として初療時に考える項目を踏まえてお伝えします。

前回の治療戦略と修正点の共有

本題の前に、前回お伝えした戦略の修正点を共有します。前回はこのフローチャートのうち、赤枠の項目について大きく取り上げました。詳細は資料をご覧ください。

資料はこちらからダウンロードできます。

第36回 外傷戦略会議 資料ダウンロード

重症頭部外傷で注目すべき3項目

脳外科医が初療室で注目する項目は低血圧、低酸素、凝固障害です。ひとつずつ解説します。

循環管理の数値目標

まず、循環管理。前回の戦略では数値目標が未設定でしたので、ガイドラインに沿って数値目標を設定しました。

厳密には15歳〜49歳と70歳以上は110mmHg、50歳〜69歳は100mmHgとされていますが、当院ではsBP>110mmHgで統一します。

この値は、米国のBrain trauma foundationによるガイドライン(Guideline of the Management of Severe Brain Traumatic Injury 4th edition)を根拠に設定しました。レコメンデーションレベルがレベルⅢである点はご留意ください。

Hb > 10g/dLの数値的根拠に関しては、Brain trauma foundation Guidelineに記載がありません。シアトルのコンセンサスカンファレンスでは7g/dLとしています。また、日本の頭部外傷治療・管理のガイドラインでは「持続する出血がなければHbは7g/dLで良い」と記載があることから、当院では非手術時の場合、Hb > 7g/dLを目標数値とします。

この根拠は1999年の論文を参照しており、現在の医療状況と異なる点で信憑性に不安はあります。とはいえ、手術前にHbが低くて良い理由はありません。日本のガイドラインを参照し、前述の基準値でご判断をお願いします。

高血圧の是正

頭部外傷では徐脈になり血圧が高まる「クッシング現象」が起こります。

脳外科医は頭部外傷による出血時に、「これ以上出血を助長させないために高い血圧を放置したくない」と考えます。ただ、ICPがブラックボックスであるため、適切な血圧の数値設定が難しいのが現状です。

クッシング現象における適切な血圧の数値目標はエビデンスがありません。

そこで、今回はNew England Journal of MedicineのINTERACT2試験をご紹介します。これは、高血圧性の脳出血に対する介入の臨床研究で、収縮期血圧140mmHg以下に管理する積極降圧療法群と標準治療群を比較したところ、積極降圧療法群で予後が良かったと報告されています。

その他、NeurologyのINTERACTを含む4つのRCTのmeta-analysisでは、収縮期血圧を140mmHg以下にしたことで、脳出血発症後24時間までの血腫の増大、3ヶ月後の死亡、重大な機能障害を減少させたといわれています。

これらの研究結果から、収縮期血圧を140mmHg程度まで下げることができると理想的だと考えられます。

ただ、脳出血の症例を外傷に適用可能か、検討が必要だと考えています。

一方で、New England Journal of Medicineの有名な臨床研究にATACH-II試験があります。これも高血圧性脳出血を対象としているものの、収縮期血圧140mmHg以下で治療を行ったところ予後が改善しませんでした。

これらの臨床研究から分かる通り、脳外科医の中でも意見が分かれています。

頭部の内部外傷とは、大まかに言えば術後の状態に似ています。

術後の血圧を管理する方法について、British Journal of Anesthesiaで発表された論文によると、再開頭を要する出血の増加は、血圧が収縮期血圧160mmHg以上の症例で有意に多かったと報告されています。

これらを踏まえて、初療室の血圧のコントロールに関しては、収縮期血圧110mmHg以上160mmHg以下を目標数値として降圧をお願いしたいと考えています。

呼吸管理の数値目標

酸素に関する数値目標も、明らかなエビデンスはありません。

頭部外傷治療・管理のガイドラインではグレードAが推奨されていますが、Brain trauma foundation Guidelineには記載がありません。

そこで、低酸素を是正するため SpO₂ ≧ 98% と設定しました。

それよりも重要な指標はCO₂です。CO₂の動脈血分圧が20mmHgから80mmHgと脳の血液還流量とリニアに相関しており、PaCO₂が30mmHgから35mmHgは軽度の過換気で還流がやや下がります。

正常頭蓋内圧時は諸説ありますが、PaCO₂が35mmHgから45mmHgが推奨されています。正常頭蓋内圧の判断はICPセンサーを入れなければできないため、ここでは35mmHg付近を目標値としました。

ただし、手術するほどの重症であれば、頭蓋内圧が低い状況は少ないと考えられるため、35mmHg付近でお願いします。手術待機中、急に切迫した場合は25mmHg程度まで下げて構いませんが、予防的過換気の継続は推奨されません。この注意事項は、Brain trauma foundation Guidelineにも記載されています。

PCO2は強力なICP規定因子

これは血圧や酸素分圧、二酸化炭素分圧を横軸、縦軸のCBF、脳の還流量をプロットしたグラフで、先ほどの数値目標の根拠としているデータです。

注目すべきはPaCO₂です。20から80のところではかなりリニアに相関がみられるため、PaCO₂がかなり強力なICP規定因子になります。これは厳密に管理した方が良いでしょう。

凝固障害の行動目標

先日の戦略会議で、今本先生が「頭部外傷手術時はMTP発動」とおっしゃっていました。我々も速やかにMTPを発動したいと考えています。

1時間ごとに血算・凝固をフォローしますので、D-dimerがピークアウトする6時間後までは連続的に行いたいです。手術時、1時間ごとに凝固をはかる理由は、値を我々が把握し手術中の輸血をスムーズにするためです。

また受傷後3時間以内であればトラネキサム酸投与をお願いします。


【質疑応答より】

A先生:時間ごとの凝固フォローをする理由が、オペ室から採血オーダーが出ないことによる点に関して質問です。手術に向かう時点で初療ならばER、ICUであればICUで凝固フォローを取るようセットに入れておけば可能かと思いますが?

B先生:MTPの凝固フォローのセットの中に入っていました。おそらく作成してくださった方がいたようです。

8時間後まで1時間おきに入っていますので、オーダー時、状況をみて使用してください。D-dimerは確認できていません。再度確認します。


MTP発動症例 ≒ 手術症例

MTP発動の判断は基本的に手術の対象となる症例で行います。感覚的には、JCS Ⅲ-100以上かつ瞳孔不同が2mm以上あれば確実に手術をしていたと思います。

頭部外傷分野で有名なChesnut先生の論文(The localizing value of asymmetry in pupillary size in severe head injury: relation to lesion type and location )でも、病院到着後に1mm以上の瞳孔不同がある患者の25%に頭蓋内占拠病変があり、3mm以上では43%あるといわれています。

瞳孔不同は1mm以上が優位な不同といわれますが、1mmでは生理的反応である可能性もあります。頭蓋内占拠病変がある確率が25%では低すぎますし、これでは4回MTPを発動して1回しか手術に至らないということになってしまう。JSC Ⅲ-100以上で瞳孔不同2mm以上がみられる場合、肌感覚でCT撮影前に手術の可能性を察し、CT撮影後に手術が確定するという流れになりがちです。ですので、このような症例であればMTPを発動させてください。

MTPになりうる危険症例については、いくつか論文をもとにピックアップしました。

搬送中、GCSが2以上悪化する症例。これはGCSの合計点と独立して院内死亡率が高く、入院期間もICU入室期間も長くなります。日本のガイドラインでも指摘されており、GCS2以上の悪化は要注意です。

もうひとつは、JCS Ⅲ-100以上かつクッシング徴候が出ているもの。実は、根拠となる論文では手術が必要なケースが6割ほどで、確実な指標とは言えません。「頭部外傷かつJCSが3桁でクッシングのような兆候が出ていたら入れるかもしれない」という具合でご判断をお願いします。

MTP発動のアクションカード

今本先生が作ってくださったアクションカードをもとに採血をフォローします。その際、ケイセントラなど凝固製剤も忘れずに投与したいです。

脳外科チームが手術室で一番気にかける点は、フィブリノーゲン150mg/dlという数字です。ここでは、麻酔科の医師と連携しながら必要量のFFPをオーダーしています。

このおかげで、4月に行った外傷症例では、MTPを発動後の手術中から「血が止まってきたな」と肌感覚で分かるほど手術がしやすくなりました。頭部外傷治療で非常に良い取り組みだと思いますので、我々も積極的に実施したいと考えています。


【質疑応答より】

c先生:血圧管理について。十分な鎮痛と鎮静をした上で判断する点は共有しておきたいです。おそらく、初療で血圧だけを見てニカルジピンと言ってしまいそうです。今でも、フェンタニルとプロポフォールが少々足りないのではないかと思う場面があります。その点は相談した上で判断するということでよろしいでしょうか?

脳外チーム:そうですね。ぜひお願いします。フェンタニルもしっかり使用して構いません。最近では、フェンタニルが頭蓋内圧を上げるといわれています。ただ実感として上昇がみられるかと言われると微妙なところです。プロポフォールで相殺されると考えてもいいと思いますから、鎮痛をしっかりした上でお願いします。


D-dimerとTBI

重症頭部外傷から少しずつ話が逸れますが、我々がD-dimerを重要視する背景をお伝えします。

この図は、AIS3以上の頭部外傷、頭部外傷以外にAIS3以上の多発外傷例を除いた頭部外傷単独の臨床研究です。骨折の合併は特に言及がありませんが、57歳以上でGCS7以下かつD-dimer50以上は死亡率が94%と非常に高いことが分かります。

57歳以下でも50%程度の死亡率という点でエビデンスとしては強力なものではないものの、前回の戦略会議でも、D-dimer50という数字は手術やICPセンサーの挿入を判断するひとつの指標として我々は重視していました。

ただ、このD-dimer50という数字には懸念があるため、どのように扱うべきか断言はできません。そこで今回の戦略会議では改訂を行いたいと思います。

D-dimerの治療戦略改訂

D-dimerは初療の先生方にもその値を治療指針に活かしていただきたいと思います。

このグラフは日本救急医学誌で取り上げられた頭部外傷単独の臨床研究で、AIS5以上、D-dimer37.5が、Talk & deteriorateという症例のリスクファクターになる点を示す論文です。

Talk & deteriorateは、頭部外傷のなかでも軽傷の高齢者に多くみられます。受傷時に会話ができ、意識レベルがGCS/E4V4M6の病態だったものが数時間後に急変し、レベル3桁で頭蓋内血腫が増大し手術となる病態を指します。この症例を振り返り、D-dimer≥37.5は1つのカットオフ値であることを示しています。この数値をフォローCTの判断材料にしていこうと思います。

ただ、当院はフォローCTをいつでも撮影可能な体制が取られていますが、他院でも同様の体制がとれるわけではない点は留意しておくべきかと思います。

CT撮影の判断基準について具体的な数値設定は難しいですが、D-dimer≥35を判断材料の1つにすることは可能です。

ICU入室後から看護師が密に観察してくださっているので、神経モニタリングで悪化した場合にCT撮影をご判断ください。

軽症例に関しては3時間後CT撮影は必要ありません。

判断に迷う場合はお声かけください。すぐお答えします。夜間、軽症の外傷性くも膜下出血であれば翌日のCT撮影で構いません。

ただ、軽症の頭蓋内出血や脳震盪でD-dimer35以上の場合は違和感があるため、3時間後CT撮影をしてください。


【質疑応答より】

d先生:骨折と頭部外傷があり、D-dimerが30程度まで上昇したとして35をカットオフ値とするならば、3時間後のCT撮影という判断になると思いますが、手術へ移行するタイミングは数値的にどれくらい下がれば良いでしょうか? 今までは、D-dimerのピークアウトを基準のひとつにしていました。

脳外チーム:基準はありません。そもそも、頭部外傷とD-dimerの数値を関連付けるのは日本特有です。アメリカのガイドラインには記載がありません。国内に多発外傷を治療しながらD-dimerを研究する施設がないことから明確な指標も存在しないのが現状です。

簡便な指標として、D-dimerのピークアウトを目安としていましたが、それが果たして凝固系の立ち上がりを本当に反映しているのかと言うと、全く根拠がないのが現状です。

ですので、D-dimerは参考値と捉えていただき、ピークアウトも、神経学的な問題やCT画像を加味しながら判断します。

d先生:先生が説明された頭部外傷に対する問題は、頭部外傷の合併症として線溶系の亢進があり、D-dimerの数値が上昇し続ける時点において、正直に言うと手術そのものが極めて困難になる側面があると思います。例えば、頭部以外の手足、腹部の手術も非常に困難になるでしょう。

お話を聞いて、その点は本当にバランスなんだろうと思いました。逆に言えば、D-dimerが上昇している時であっても手術をしなければならないケースが考えられます。例えば、肺出血が続いている場合、可能な限り凝固系のサプライを行う。線溶系が亢進しても、次から次へClotができるように、凝固ができるようにすることも必要かと思います。


トラネキサム酸 〜CRASH 3 trial〜

トラネキサム酸に関しては、CRASH 3 studyをご紹介します。有名なCRASH 2を引き継ぎ、頭部外傷だけ切り離して独立させた臨床研究です。CRASH 2の結果から、CRASH 3でも同様の結果が出るのではといわれましたが、実は異なる結果が出ています。

トラネキサム酸はGCS9〜15の軽傷から中等症の頭部外傷の死亡率を低下させます。それも、12.5%対14%ですので大きな違いはありません。ただし3時間を超えるとその効果がなくなります。

これらの結果から、頭部外傷に関してはトラネキサム酸の影響がそれほどなく、重要ではないと覚えていただいて構いません。投与し忘れても結果が大きく変わることはまずあり得ないでしょう。

頭部外傷による死亡は、出血量そのものというよりも、出血によるmass effectが原因です。たった1センチから1.5センチの急性硬膜下血腫で出血量が200ml程度でも死亡します。止血できても頭蓋内血腫を減らさなければ意味がありません。

トラネキサム酸が占める治療的な役割は、実はそれほど大きくないのです。

ICPセンサー挿入の適応

前回は原則に「GCS8点以下でCT正常」も含みましたが、今回は「ありうる例」に引き下げました。これも後ほどお話しますが、現在は非推奨です。

重症頭部外傷かつCTで異常所見があり脳底槽が圧迫されている状況や、出血がなくても脳底槽がパンパンに張る状態は異常ですのでICPを入れます。そうでない限り基本的にはICPを入れません。

ただし、他部位損傷かつ整形外科領域の手術が必要で、出血量が増える懸念があれば、重症度を鑑みてICPを挿入して構いません。加えて、先ほどお話したTalk & deteriorateのリスクが高いと我々が判断した症例や、超重症例に対する姑息的介入として挿入する可能性も考えられます。

これらは可能性の話です。基本的にICP挿入はこの原則に合致するケースのみとします。

BTF Guideline 4th editionでのICP

BTF Guideline 3rdエディションでは、ICPのモニタリングが有用であるといわれていました。けれども、レベル1、レベル2で推奨するほどのエビデンスがないために、4thエディションではレベル2Bに下げられています。

つまり、院内死亡率や受傷2週間後の死亡率を下げるためにICP挿入が推奨されていますが、機能回復に関する文言などは一切削除され、死亡率を下げるためだけに推奨する形で修正されているのです。

これは4thエディションで、エビデンスがあるものを推奨する方針に変わったのも要因のひとつですが、やはりエビデンスから離れて独り歩きしてしまったのがICPセンサーではあります。

これは3rdエディションの記載ですけれども、こちらも削除されています。

ICPのエビデンス

A Trial of Intracrantial-Pressure Monitoring in Traumatic Brain Injury(2012)、BEST TRIP studyという研究をご紹介します。これにより脳外科医はICPセンサー挿入を躊躇するようになりました。ICPセンサーの有意差、有効性を全く示せなかったのです。

ただ、これはICPセンサーを入れない対照群で、神経診察と画像フォローを非常に密に行った研究ですから、現実的にかなり厳しい研究だと言えます。

その後、ICP挿入を前向きに検討する見方も現れ始めます。2013年に発表された、ICPモニタリングが死亡率低下と有意に関連していた報告や、

後向きのコホート研究でアメリカの外傷センター(レベル1外傷センター)20施設を対象にした研究では、ICPモニタリングが死亡率を低下させたというエビデンスも発表されています。

2015年には、2012年以降のスタディをまとめたmeta-analysisも登場し、ICPは死亡率低下に関連していると発表しています。ただしICU滞在日数、入院日数が有意に伸びるといわれているため、ICP挿入後は可能な限り早い段階で抜きます。この点は後編でお話します。

ICPは死亡率を低下させる意味では有意義なデバイスです。挿入時に迷わない姿勢は崩さないよう、私たちは考えています。

ICPセンサーの適応

先ほど、CT正常の場合はICP挿入を推奨しない旨をお伝えしました。これは2014年、ミランで開催したコンセンサスカンファレンスで、昏睡を伴う外傷性脳損傷でCTが正常な症例にはgenerally not recommended といわれています。そのような場合はセカンドCTが推奨されるため、ICPセンサーは症例を選んで挿入しましょう。

抗てんかん薬の予防投与

抗てんかん薬の予防投与は、「7日以内」に変更します。初療で気づいた際はイーケプラを入れてください。我々が気づかないまま、手術後に初めてイーケプラが投与される状況を防ぐためご協力をお願いします。

他の部位の損傷で手術する判断基準

CT所見が軽微な場合。例えば、ごく小さな外傷性くも膜下出血で凝固問題もなければ手術して構いません。3時間後のCT撮影、D-dimerのフォローも必要ありません。

ただ、脳挫傷や急性硬膜下血腫の薄いものなど、のちのち増大しそうな病変や凝固異常があるものは3時間後CTを確認させてください。問題なければ手術をお願いします。

必要があればICPセンサーを入れます。先日の症例ではECMO挿入後、透視室でICPセンサーを入れました。スカルボルトキットという装置であれば10分程度で入ります。ご希望があれば使い方をお教えします。


【質疑応答より】

e先生:整形チームの立場でお伝えすると、このスライドで手術の判断が可能かどうかが一番気になる点です。今まではピークアウトが判断指標でしたから、その点が一番、先生方への説明が必要になるかと思います。

脳外チーム:そうですね。ピークアウトについてどこまでの意味があるのか

e先生:やはりCT撮影まで3時間待つということになりますか?

脳外チーム:そうですね。

d先生:凝固問題なしというのは血液データが赤字ではなく黒字の基準範囲内ということでしょうか?

脳外チーム:いや、D-dimerの今の基準範囲を追いかけるとおそらく難しいと思います。

d先生:問題なしというのは何を根拠にされていますか?

脳外チーム:私も迷いましたが、例えば、骨折の修飾を受けてD-dimerが10程度に上がるような状況であれば問題なしと判断して良いと思います。

f先生:このスライドは重要ですね。メンバーに向けて、より分かりやすくしてください。

d先生:確かに、待機できる前提の手術であれば一定の基準を出せると思いますが、腹腔内出血、胸腔内出血に対しては、やはり3時間待機し必要ならばICP挿入かつ手術をというように、フローチャートを作成すると良いと思います。

d先生:機能的予後よりも生命が最優先されると思います。

e先生:このフローチャートでは、危機的状況の方に対しても3時間待たなければいけなくなりますよね。必要な部分の書き方を考えたほうがいいかもしれないですね。


手術の際の注意事項

手術時の注意事項は前回と大きく変わりません。腹臥位ではConclrde positionで頭を15度程度まで上げてください。

加えて、ICPセンサーが挿入される症例ではCPP≧50以上を目標に管理する点を麻酔科の先生にお伝えください。術後のCT撮影もお願いします。

頭部外傷と人工透析

最後に非常に重要なことをお伝えします。脳外科医の間では「透析すると浮腫む」と伝えられてきました。ただ、2000年代に入ってから、血液透析で血圧の変動とは関係なくICPが上昇するといわれているほか、間欠的な血液透析とCHDFでICPの上がり方に差が出てきたといわれています。

頭の浮腫と透析の研究者、Davenport先生による臨床研究では、症例が5、6件と少ないものの、ICPが上昇しにくいCHDFの方が優れていると言われています。

CHDFでもICPは上昇する

これは2019年発表の論文で、間欠的な血液透析とCRRTを比較した臨床研究です。これによるとCRRTでICPの最大値が100mmHgまで出ています。

この結果はBUNが関係しているといわれ、右側の表では、血清ureaを横軸、ICPを縦軸にとると有意な相関がみられます。BUNとはBBBを抜くのに時間がかかるものですが、BUNが透析で速やかに除去されると、脳の高浸透圧によって一気に脳の浮腫がひどくなります。

これが、重症頭部外傷では脳が非常に浮腫むメカニズムです。。先日の症例では、ICPによるコントロールがつかなくなるほど浮腫みました。


【質疑応答より】

d先生:この血液循環に関して、血液浄化には、CHD、CHFと、それぞれ濃度を使うのか、圧を使うのかによって除去できるものが異なります。これらを全て押さえたうえで血液浄化が不可なのか、CHDFが不可なのか、他の除去方法であれば良いのか、ICUチームで考慮されてもよいのではないかと考えています。

脳外チーム:血液浄化のCHD、CHDFに関しては別途確認し回答します。


重症頭部外傷患者における腎代替療法

重症頭部外傷患者における腎代替療法は原則的に禁忌です。状況をみて、可能な限りお待ちください。やむを得ない場合はCHD(F)ですが、それも流速を落とし、透析液流量をなるべく減らします。ナファモスタットも使用し、流量低めでCHD(F)をし、原則的にはお待ちください。


【質疑応答より】

d先生:重症頭部外傷における腎代替療法でナファモスタットを使うとのことですが、世界的にどうだったのでしょうか。国外では使われておらず日本だけです。APTTをガイドで、ヘパリンを使うと慈恵医大の先生から教わりました。ナファモスタットをしなければいけない理由はありますか?

脳外チーム:出血の助長が懸念されます。聖路加病院の集中治療を担当している医師に聞いたところ、海外では最近、クエン酸を使うとおっしゃっていました。ですので、必ずしもヘパリナイゼーションである必要はおそらくなく、日本ではクエン酸は使わないことから、ナファモスタットで対応しているのが実情です。

A先生:どの時点で透析療法に入ることができますか? 頭部外傷がどの程度の時点で流量を上げていいのでしょうか?

脳外チーム:現時点では明確な指標を示す研究がありません。今は、ICPが現行の治療で落ち着いてこない限りはというところで考えています。

A先生:そうすると、急性腎障害になる可能性が非常に高い場合、上がる前にBUNをCRRTで除去する手段も考えられますか?。

脳外チーム:浸透圧勾配を大きくしないから、ということですね。

A先生:そうです。例えば、可能であればBUNが25の時点でも、尿が出ておらず急性腎障害になる可能性があるならば抜く判断をします。

脳外チーム:そうですね。ただ、本当にBUNだけなのか検討は必要かと思います。浸透圧勾配を作り出す溶質など、他にもあるかもしれません。

まだ、BUNやナトリウムも計測しているものの、そこで計測されていないものが重要だった場合に浮腫んでしまいます。ですので、可能な限り待ってください。特に慢性腎不全で透析を週3回する方は、インディケーションが除水だけになってしまうこともあります。除水だけならば少し待てるかと思います。

C先生:逆に除水するだけならば、血清浸透圧が上がってもよいと判断できるかもしれません。

B先生:僕は先日、Davenport先生の論文を拝見して、最近経験した症例に当てはまることから、足を切断せずに長期間耐えていたのならば、もっと早く導入した方が良かったのではないかと考えました。同じ論文を見て逆の結論を出したので、お話を聞いて難しさを感じています。

当然、HDに比べればCHDFの方が採用されるのは、除去効率を考えれば濃度勾配において当然の判断です。おそらく、重症頭部外傷が主症状で透析の必要性が低い症例であれば待機可能ですが、そうでなければ個別相談になると思います。

脳外チーム:そうですね。その症例は3000程度で回ってきて、eGFR換算では50程度だったと記憶していますが、排尿がなく50となると、確かに少々早かったかもしれません。

もう少し早いタイミングで透析流量を落として回していたら、少なくともジャンプアップはしなかったかもしれません。早めに1つ回してみるのを検討してよいと思います。

B先生:まずは重症頭部外傷における腎臓代替療法は危険が高い点を共有し、Life threatningな症例の判断はディスカッションしながら検討しましょう。

脳外チーム:そうですね。フローチャートにまとめるのは難しいでしょう。特に外傷は、その治療が1例ずつオーダーメイドになると思いますので、都度ご相談ください。


重症頭部外傷戦略のまとめ

今回お伝えした要点をまとめました。

  • 初療においては低血圧、適切な換気、凝固障害への対応が重要
  • 血圧は 110mmHgsBP = 160mmHg (Hb 10を目標に)
  • 呼吸管理はSp02≥ 98%  (PCO2 35mmHgを目標に)
  • Fibrinogen 3g、トラネキサム酸1gの投与
  • D-dimer、Fibrinogenを1-6時間1時間おきにフォロー
  • D-dimer 2 35は異常がなくても3時間後CTを検討
  • 余裕があればイーケプラ500mg投与
  • 血液透析、特にAKIでの導入は原則禁忌

今回共有したアクションカードはこちらです。

今回の戦略会議の決定事項は、当院の救命救急を通じて検証され、次回の戦略会議で再検討を行います。

各専門分野のリーダーが外傷のケーススタディとベストプラクティスを検討する外傷戦略会議。今後、さらに革新的な事例をお届けできるかもしれません。引き続き、救急医療の最前線にご注目ください。

外傷戦略会議・YTTのご紹介

当院では最先端の救急医療を目指して、さまざまなテーマの外傷戦略を検討しています。
これまで行った外傷戦略は他の医療関係機関の皆さまにもご活用いただけるよう公開中です。

今回の資料はこちらからダウンロードできます。
第36回 外傷戦略会議 資料ダウンロード

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外傷戦略会議 資料一覧

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