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【YTTレポート】脊髄損傷

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脊髄損傷の評価は整形外科医でなくとも出会うことがあります。正しい知識と心構え、そして専門医との共通言語を知っておくことは大切です。

今回は「脊髄損傷」をテーマに、整形外科チームの八幡直志先生からお話いただきました。

研修医に伝えたい3つの「できるようになってほしいこと」

最初に紹介されたこの女性は、頸髄損傷による完全麻痺の状態で運び込まれました。スーパーの車止めにつまづき、顔面を打って運び込まれた方です。整形外科以外でも、脊髄損傷の可能性を踏まえた判断が求められる場面があります。

いつでも適切な判断をするために、3つの「できるようになってほしいこと」を教えていただきました。

①脊髄損傷を評価できるようになってほしい!

②不安定性を見逃さないでほしい!

③治療のコンセプトを知ってほしい!

脊髄損傷の“評価”に必要な「共通言語」を知ろう

例えば、診断が難しく専門医へ相談したい時、伝えるべき評価軸(共通言語)がわからなければ、専門医も正確な判断ができません。そこで、脊髄損傷の高位と重症度判定の方法を事例を見ながら丁寧に教えていただきました。

非骨傷性脊髓損傷と中心性脊髄損傷

言葉が似ていて、整形外科医でも整理できていない方がみられる非骨傷性脊髓損傷と中心性脊髄損傷。非骨傷性脊髄損傷とは骨折のない脊髄損傷です。(棘突起骨折は除く)

骨折がないのに脊髄が損傷するのか?

下のMRIの症例を見てみましょう。頚部が伸展することで脊髄が圧迫されている様子がみられます。非骨傷性脊髓損傷の事例では、骨折はありませんが顔面を強打するなど首が後ろにそらされるような過伸展損傷で神経が圧迫されて生じるのです。

「頸髄損傷だからネックカラーを外してはいけない」と考えがちですが、不安定性がないと判断されたなら首を伸展する姿勢を早く解除し神経の圧迫を回避しなければなりません。つまり、ネックカラーを外す判断が必要です。

一方、中心性脊髄損傷とは病理学的に脊髄の断面における中心部、つまり灰白質が主に損傷した病態です。中心ほど頭側支配の神経(上肢)が分布するため、上肢の障害が主体となるのです。非骨傷性脊髄損傷の多くが頚椎の過伸展による中心性脊髄損傷となるため

このように混同されてしまうようです。

事例で学ぶ脊髄損傷の判断

頸髄損傷となった40代男性の事例では、胸式呼吸ができない様子をもとに現場での損傷高位判断を学びました。

またここでは、混同されがちなSpinal Shockと、Neurogenic Shockを挙げ、それぞれ違う意味を指していることを押さえながら、Neurogenic shockの具体的な症状を確認しました。

神経・感覚の状態評価は「ASIA分類」を活用

完全麻痺は、運動神経と感覚神経ともに損傷を起こして麻痺がある状態です。一方で、運動神経もしくは感覚神経のどちらかが損傷を受けており、部分的な麻痺である状態を不全麻痺といいます。

各部位の神経の運動、感覚の状態を評価するツールが「ASIA(American Spinal Injury Association)」です。この評価手法で、脊髄損傷の重症判断と損傷高位についてや、治療評価が適切に行えます。

これも、事例とともに丁寧に教えていただきました。

今回は、実際にASIA分類で評価するときに押さえておくべき3つのルールを教えていただきました。

①機能残存レベルを探せ

②運動感覚 左右で最頭側の残存高位を言え!

③複合神経支配に気をつけろ!

カンファレンスでは、患者の機能残存レベルの共有を行います。身体のどの部位がどの程度まで機能しているのか、点数の見方と見落としやすいポイントを共有いただきました。

先生がもし研修で脊髄損傷の患者を診る機会があれば、その様子をもとに手元でASIA分類を行い、カルテと違う部分があれば積極的に医師へ聞いてみることをおすすめしています。

不安定性を見逃さないために

何かを見落とさないようにするために、いつも同じルールに従えば見逃しません。脊髄損傷で注目すべき3つの要素ABCを共有しました。

・A lignment:並び方

・B one:骨

・C artilage:軟骨(軟部)

そのうえで、事例を見ながら見落としてしまいがちなシチュエーションを確認しました。

転んで顔を強打した高齢女性と、柔道の練習中に頭から落ちた選手の事例から、レントゲン、MRI、CT画像を確認し、参加者と一緒に異常を探しました。この不安定性を初療時に見つけられず、数週間から数カ月後に悪化して手術になるというのはありうる話です。

医者として大事なことは1回の診察だけで判断しないこと。フォローしていくこと。

先生から伺った心構えは非常に印象的で、医師としての責任の重さを再認識させられるものでした。

これまで同じような症状をたくさん見てきて、中にはごく稀にこのような(見つけづらい異常を抱えた)患者さんが来ます。これを『ほとんどの人が大丈夫なんだから、今回も大丈夫だろう』と思うのか、『1例たりとも見逃さない』と思って対応するのか

もし、自分が患者の立場になったらどうして欲しいのか? 事例に挙げた子は当時16歳でコンタクトスポーツもしていました。もし、運動中に頚椎の不安定性から上位の脊髄損傷となり呼吸が止まってしまったら……。『気づきませんでした』は、ちょっとないよね。

こういったことに限らず、心配があるならばその後も見続けることが大事かもしれないね。どの科であっても、“患者さんを心配し続けること”が大切(先生のお話より)”

脊椎損傷、治療のコンセプト

最後に、脊椎の手術がどのようなコンセプトのもと行われているのかを共有いただきました。

脊椎は身体を支える柱の役割があり、それが壊れたときは再建するための治療を行います。

支柱が安定すれば、神経を圧迫したり、傷つけたりしなくなります。また、止血のためにも支柱の安定化は重要です。

そして、脊椎は神経を保護する役割も担っています。ですが、骨折や加齢が原因で神経を絞扼してしまうリスクもあります。そのリスクを避ける除圧も治療のひとつです。

柱の再建と、神経の絞扼を解除。脊椎損傷治療におけるコンセプトを理解すると、手術で何が行われているのか理解しやすくなります。

最後に、完全麻痺から改善した患者のお話で締めくくられました。完全麻痺の状態であっても柱の再建と神経の再生を見越した除圧で回復した事例です。

今回のお話も、私たちの判断や手技の一つひとつが患者の予後に大きな影響を与えることを実感し、身が引き締まる思いでした。

Young Trauma Talk(YTT)のご案内

Young Trauma Talk(YTT)は形成外科、感染症科、公衆衛生など、外傷治療に関わるさまざまな専門家を交え、少人数のトーク形式で情報交換する場です。月に1〜2回、当院にて開催しています。参加費無料。

参加希望の方はお問い合わせフォームよりお問い合わせください。

次回の開催内容はお知らせより告知します。お楽しみに!

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