埼玉医科大学総合医療センター高度救命救急センター

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【YTTレポート】開放骨折と骨髄炎に対する抗菌薬治療

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開放骨折と骨髄炎のリスクは高いと言われています。救命救急でよく扱う外傷性骨髄炎の場合、汚染の種類、原因菌の究明、傷の重症度、外科的処置の度合いなどから総合的な判断が求められます。

今回のYTTでは、当院総合診療科 川村隆之先生から、骨髄炎の基本、外傷性骨髄炎のリスク因子、予防的抗菌薬の判断基準をお話いただきました。

外傷性骨髄炎の予防に必要なもの

講座では骨髄炎の基礎から振り返っていただきました。

外傷性骨髄炎の予防に必要な要素は、①傷の重症度判定、②汚染された組織を速やかに取り除くデブリ、③適切な予防的抗菌薬の使用です。

傷の重症度の判別に「Gustilo-Anderson分類」を利用します。この分類方法のうち、Type-Ⅲ-A以上(重度の軟部組織損傷および汚染を認めるもの)は、創部感染率が高くなります。

予防的抗菌薬の選択基準

傷口の汚染の種類によって使う予防的抗菌薬の種類が変わります。2011年に発表された論文 East Practice Management Guidelines Work Group: update to practice management guidelines for prophylactic antibiotic use in open fractures(2011)のガイドラインをもとに、創部の状況から考えられる原因菌と推奨される抗菌薬をご紹介いただきました。

検体培養のタイミング

負傷時や手術時、傷口へ菌が付着しコロニーを形成したとき、すべてのコロニーが骨髄炎を発症するのかというと、そうではないことがわかっています。

Efficacy of cultures in the management of open fractures(1997)によると、感染前のコロニーが最終的に骨髄炎の原因になったのは8%といわれています。かつ、開放性骨折関連骨髄炎で、デブリ前のコロニー培養の結果、真の原因だったのは22%。コロニーが形成されていても感染症は起こらないケースが考えられます。

一方で、手術時点ですでに骨髄炎を発症している状態で深部検体を行った場合、比較的正確に骨髄炎の原因を反映しているという報告もあるそうです。

これらのことから、手術時の深部検体の重要性を先生は強調されていました。

また、外傷時から入院にかけて、骨髄炎の原因微生物も変化します。

手術時点では黄色ブドウ球菌、腸内細菌、クロストリジウム等、外傷を受けた環境から菌が付着する可能性が高くなります。一方、入院時の処置で人の皮膚に常在するコアグラーゼ陰性ブドウ球菌や、緑膿菌、コリネバクテリウムなど弱い微生物もコロニー形成します。

入院時の処置でコロニーを形成しがちな骨髄炎の原因微生物は、バイオフィルムという粘液を骨の表面に作り、抗菌薬やマクロファージが通過できないバリアを張ります。これらの菌に効く抗菌薬は限られており、外傷時の骨髄炎と比べて厄介な症状を引き起こします。これらは慢性骨髄炎と言われています。

急性骨髄炎は明らかな症状(発赤、熱感、腫張、発熱)が現れますが、慢性骨髄炎は非常に分かりづらい臨床像になりがちだそうです。

治療の簡易フローと判断基準

では、実際の治療ではどのように判断すればよいでしょうか。深部検体でなければ信頼性の高い原因菌判別が難しいこと、そもそも骨髄炎だと気づくのが難しいことから、外傷性骨髄炎の治療は判断が難しいとされています。

適切な処置のための簡易フローをご紹介いただきました。

講座では、それぞれのケースに合わせて抗菌薬の投与期間と判断の根拠を丁寧にお伝えいただきました。

外傷性骨髄炎の治療期間は非常に長く、原因微生物の把握が重要

腐骨残存、デバイス関連の骨髄炎がある場合、デブリ後に6週間〜3ヶ月以上の抗菌薬投与を検討します。治療期間が非常に長くなることから、原因微生物の正確な把握、使用する抗菌薬の感受性理解の有無で治療の質が変わります。

検体提出のタイミングNG例

今回はMEPM+VCMを使うタイミングのNG例を教えていただきました。当院では以下のような例はほとんどないそうですが、認識しておくと適切な判断ができます。「敗血症性ショックなど緊急度が高い場合は速やかな投与が必要ですが、そうでない場合は、深部培養提出後の抗菌薬投与をお願いしたい」と先生はお話されていました。

実際は、このように分類される症例ばかりではなく、患者さんの様子をみながらケースバイケースで判断する場面が多いそうです。先生のご経験から、貴重な知見をいただくことができました。ありがとうございました!

Young Trauma Talk(YTT)のご案内

Young Trauma Talk(YTT)は形成外科、感染症科、公衆衛生など、外傷治療に関わるさまざまな専門家を交え、少人数のトーク形式で情報交換する場です。月に1〜2回、当院にて開催しています。参加費無料。

参加希望の方はお問い合わせフォームよりお問い合わせください。

次回の開催内容はお知らせより告知します。お楽しみに!

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