【YTTレポート】“ろんぶん”、ってどうやって読むんですか? 臨床研究道入門 川越出張版2023
ブログ研修医・医学生の皆さんにとって、海外の研究論文を探す機会は少ないかもしれません。しかし、臨床で答えのない疑問が浮上したとき、普段から世界中の研究論文に触れることは重要です。何が真実で、どう答えを導き出せばいいのか。経験を積むほど必要な情報を効率的に探し出したい場面が増えてくるものです。
当院では、研修医・医学生を対象にした勉強会、Young Trauma Talk(YTT)を定期開催しています。今回は帝京大学外傷センターより乾貴博先生をお招きし、論文を経験に役立てる考え方、効率的な論文の探し方を教えていただきました。
講師紹介
帝京大学整形外科 / 外傷センター
乾貴博先生
答えのない疑問に向かい、答えにたどり着けるのが良い医者
乾先生の「どうやったら真実にたどり着けるのかを学んでいただきたい」という言葉からスタートしたこの勉強会。
臨床では、目の前の患者さまの状況をどのように判断し処置をすべきか疑問の連続です。
疑問に対する答えを、私たち医師が持っていなければ処置ができません。
「疑問があるときに答えへ辿り着ける。答えをしっかり持っている先生は良い医者」と、乾先生は仰いました。
疑問があるときに、世界中の先生はPubMedなどで論文を探し、教科書や文献を探します。
そこで、臨床研究論文の読み書きに必要な知識をご紹介します。
①論文の構造
②研究デザイン
③統計学
④文献検索法
今回の勉強会では、①論文の構造と④文献検索法に絞ってお話いただきました。お話の一部をご紹介します。
論文の構造「IMRAD形式」を理解しよう
論文は多くの人が理解しやすいよう構造化されています。世の中の9割以上の論文は「IMRAD形式」で書かれており、この構造を理解すれば論文が伝えたいことを理解しやすくなります。
論文の構造=IMRAD Introduction(イントロダクション)Methods(メソット)Results(リザルト) and Discussion(ディスカッション) |
それぞれの意図と内容は以下のようになります。
Introduction(イントロダクション)
論文の導入部分です。必ず「広いところから狭いところへ向かって書く」が基本で、おおよそ3つの要素に分かれます
①What is Known=わかっていること 読者をネタの現場に連れて行くための導入です。取り上げるテーマの疫学データ、治療法、現状を書きます。「このテーマが、世の中にどれくらいのインパクトを与えるか」を伝えます。 |
②Unknown=わからないこと 研究者が何に疑問をもったかを書きます。疑問に対し明らかになっていないこと、過去の研究の不備や、Knowledge gapがどこにあるか、「解決するとどれくらい良いものなのか」をアピールする場です。 |
③Hypothesis=仮説 この研究で明らかにすること、方法が書いてあります。ここでは簡潔にまとめ、詳細は次のMethod(メソッド)に書きます。 |
勉強会では、実際にThe NEW ENGLAND JORNAL or MEDICINEよりオススメのジャーナルを読んでみました。
論文によっては政治や時代背景を加味して読むべきものもあるそうです。論文だけではなく、政治・歴史にも触れましょう。
Methods、Results(メソッド・リザルト)
今回の勉強会では概要のみご説明いただきました。
Methodsは研究のデータ元・手法を、Resultsは結果を記載します。
Discussion(ディスカッション)
イントロダクションの逆で、「狭いところから広いところへ向かって書く」が基本。この研究におけるイケてるところをアピールする場です。
おおよそこの4段階で書きます。
①研究から得られたこと 第一パラグラフを読むと、研究の内容がまとまっている。 この研究の結論を読みたい時は、ここを読むとわかる。 |
②得られたことの理由付け 研究で得られたことをアピールする部分。 |
③Limitation 限界。どこまで限界に挑戦したかをアピールする部分。 |
④Strong Point 強み。他の研究と比べた強みをアピールする部分。 |
論文の書き方のテクニックとして「Paragraph Writhing」という考え方があります。
1パラグラフ1メッセージKey sentenceを入れる
これを意識すると、内容に迷いがなくなります。
乾先生オススメの本はこちら →論理が伝わる「書く技術」
疑問は2種類ある
論文を探す前に、自分の疑問を構造化して考えてみましょう。
臨床上の疑問は2種類あると考えられているそうです。
①Background Question(バックグラウンド クエスチョン)
1つの言葉に関する疑問です。「答えが得られる」もので、研究で見つける疑問ではありません。初学者の方がぶつかる疑問とも言えます。
例:骨盤骨折とは? TAEとは?
教科書などの文献や、Google検索を駆使して調べましょう。
②Foreground Question(フォアグラウンド クエスチョン)
答えのない疑問に対し、研究でみつける疑問です。以下の5つに分けられます
- メカニズム:例)どうして骨盤が折れた?
- 診療の実態:例)骨盤骨折の頻度は?
- 検査の有効性:例)CTとX線どっちがいい?
- 要因と結果:例)年齢・性別・地域などの要因で結果に差が出るか?
- 介入の効果:例)TAEとパッキングのどちらがいい?
これが研究論文を読み、多くの結果をもとに導き出す疑問です。
乾先生のオススメ本はこちら →日常診療で臨床疑問に出会ったとき何をすべきかがわかる本
文献検索とスクリーニングの便利サイト&ツール
今回の勉強では、実際に「骨盤骨折」を検索する際に使えるサイト、ツールを教えていただきました。
どこで検索する?主要4サイト
臨床研究でよく使う検索サイトはこちらです。
②Embase(エルゼビア) ※基本有料ですが、Scopusなら無料。
検索のコツ
今回はPubmedで検索を実践してみました。骨盤骨折=pelvic fractureと検索すると……結果は約12,800件!
左カラムには、内容やカテゴリーが並んでいます。
「骨盤骨折とは」「よくある治療法は」のような内容は「Review」というカテゴリーにあたります。左カラムから「Review」を選択すると……1223件まで絞り込めました。
さらに最新の論文を探すため、画面右の「Sorted by: Best match」を使います。
歯車アイコンからソートを「Most resent」に変えると、最新の論文から表示されます。
あとは、タイトルと説明文を読みながら情報を探しましょう。
慣れてくると、マウスクリックが面倒になるそうです。
そこで、論理演算子をおすすめしていただきました。
代表的な論理演算子
and・or・not
():カッコの内から計算する
””:完全一致検索
*:前方一致検索
[]:統制語。検索が含まれる場所を指定できる
MeSH(Medical Subject Headings)とは、Pubmedに登録されている検索キーワード。キーワードごとにカテゴライズされており、人力で紐付けられています。最新の論文はMeSHに紐づいていないケースがあるため注意
Pubmedの検索方法をおさらいする際に、東京大学医学図書館様のコンテンツをオススメいただきました。
PubMed の使い方|東京大学医学図書館(PDF)
勉強会では他にも、ジャーナルの信憑性がわかるIFという指標や、便利なツール「Rayyern」を使って論文のスクリーニングを行うなど、素早く論文を読む実践的なテクニックを教えていただきました。
Evidence(証拠)とExperience(体験)の統合=より良い医療
EBMという言葉をご存知でしょうか。
Evidence Baced Medicine(根拠に基づく医療)の略です。
「論文でできないこともある」「論文より臨床が大事」だと思う人もいると思います。 ですが、 Best reserch Evidence:一番良いエビデンス Clinical Expertise:(臨床での)あなたの経験 Paitient:患者のおける状況 「これらを全部ひっくるめて治療するよというものが、EBMの本意です」 |
と、乾先生は念押しされていました。
医学生・研修医の時点では、論文検索する機会は少ないかもしれません。いざ、検索のコツや論文の読み込みをしたいとき、すぐに使える内容でした。
また、経験を積み上の立場に立ったときにも、エビデンスを調べる場面が増えるそうです。
早い段階で調べる癖をつけておけば、いざ困ったときに素早く欲しい情報を得られるはず。
エビデンスと経験を統合し、より良い医療を目指しましょう!
Young Trauma Talk(YTT)のご案内
Young Trauma Talk(YTT)は月に1~2回程度の頻度で定期開催しています。参加費無料。形成外科、感染症科、公衆衛生など、外傷治療に関わるさまざまな専門家を交え、少人数のトーク形式で情報交換する場です。
ぜひご自身のスキルアップ、情報交換の場にお役立てください。
次回の開催内容は、お知らせより告知します。
参加希望の方はお問い合わせフォームまたはTwitterよりお問い合わせください。